「需要から逆算する越境ECモノづくり」の概念
| ペルソナの限界とジョブ理論という視点
正直にいうとだいぶ以前から、マーケティングでおなじみの「ペルソナ」という考え方にずっと違和感がありました。サービスや商品の購買の対象となるユーザー像を、年齢・性別・居住地・職業・年収・趣味・ライフスタイルなどのデモグラ・サイコグラ属性を用いて細かく作り込むほどに、確かに相手を分かった気になれます。データが豊富に取れるようになった昨今、実際の購買者からこのようなペルソナを作ることもできるでしょう。しかし、最大の違和感は「なぜ」このユーザーが買うのかについてのフォーカスが極めて甘いことです。上記のような属性は購買と相関関係はあるかもしれませんが、必ずしも因果関係があるわけではない、ということです。
“イノベーションのジレンマ”で知られる経営学者のクレイトン・クリステンセンが体系化した考え方で、ジョブ理論 (Jobs to be Done : JTBD) というものがあります。彼は著書の中で、”顧客は商品そのものが欲しいのではなく、片付けたい用事 (ジョブ) を解決して生活をより良くするために商品を雇用している”という趣旨のことを書いています。つまり、年齢や居住地などの属性に関係なく、「同じ解決したいジョブを持っている人」を一つのまとまりとして捉えているのです。ペルソナが見ている「誰か」は結果的に同じジョブを持っていることはあり得るかもしれませんが、同じ血液型の人はみんな性格が一緒だという主張にも似ていて無理があります。探すべきは因果関係であり「どんな解決したいジョブがあるのか」なのです。
| ECプラットフォームにジョブが落ちている?
ユーザーが解決したいと感じているジョブはどこにあるのか?周りを観察したり頭の中で想像したりして見つけることも可能かもしれませんが、それではペルソナと同様に因果関係の裏付けが弱いでしょう。注目すべき場所は、ユーザーが実際にお金を落としている場所、つまりEコマース周りです。購買意欲のあるユーザーが実際に打ち込む検索キーワードや売れている商品の特徴、そしてレビューで、それらから「何を解決したかったのか・何に不満だったか・どんなキーワードで何を探しているのか」の情報を得ることができます。これらを大量に保持しているのが、AmazonやeBayなどのECプラットフォームであり、特に、日本の伝統工芸品や職人技術を生かした作品と相性が良いのがEtsyです。Etsyを例として、具体的にどのようにジョブ (解決したいこと) を読み取ることができるかを考えると、検索キーワード・売れ筋商品 (出品タイトル及びタグ)・商品レビューの3つからそれを見極めることができるでしょう。
| 検索キーワード・売れ筋商品・商品レビューからジョブを探る
検索キーワードは、ユーザーの購入前の意図を汲み取ることができます。当然ながら、あるユーザーが探している直接的な名詞 (rustic handmade / espresso cup / ramen bowl など) もあれば、 修飾語 (for beginner / gift for tea lover / microwave safe など) のように、ジョブにまつわる状況を表すものもあります。トレンド (実需) が把握できる外部の有料ツール以外にも、Etsy自体の検索にはサジェスト機能があり、あるキーワードを検索すると、その次にどんな関連キーワードが多く続いて検索されているかを見ることができます。軸となるフォーカスワードは最初に決める必要はありますが、そこから連鎖的に候補となる実需を見つけていくことができます。特に、英語に翻訳されず日本語のまま定着したキーワード (ikebana、wabi sabi、kintsugi など) は、関心層から一般層へ広がる踊り場にいる注目すべき有望トレンドキーワードです。
次に、売れ筋商品です。何が売れているかは、口では語られない顕示選好です。売れている商品の形状や機能、価格帯などの打ち出し方を見れば、実際に解決されたジョブが何か見えてきます。主に出品タイトルとタグにこれらのキーワードは入れられていますので、効率良く抽出するためにはキーワード調査ツールが必要になるでしょう。次に、商品レビューです。購入後の現実と失敗を見ることができます。「思ったよりも小さい」「電子レンジで使えなかった」「すぐに欠けた」「写真より色が暗い」など、ジョブが解決したのかしなかったのかの最も外れにくい手がかりになります。
これら3つから様々なジョブの仮説を立てることができるようになります。例えば、同じ抹茶碗でも、毎日気軽に使いたいのか、来客をもてなす一碗なのか、贈り物なのかという状況ごとに、そのジョブを解決するために必要な大きさ・丈夫さ・セット構成・箱の有無などが見えてくるのです。そして、次に行うことは、これまで蓄積してきたキーワードの精査です。作品を表す出品タイトルやタグに使用できるキーワードは無限に設定できるわけではないため、優先順位を付ける必要が出てきます (出品タイトルとキーワード選びの考え方と 検索に強い出品タイトルの作り方 については以前の記事を参照ください)。ここで見るのは主に以下の4つの指標です。平均検索数 (需要の大きさ)、CTR (100%超なら複数を見比べる購買意欲の高い層)、競合数 (競合過多になっていないか)、検索トレンド (一発の急上昇でなく、安定した検索があるか) です。まずは、絶対的な閾値を設けずに、候補の中で相対的に高いものから優先順位を上げていきます。
| 需要は絶えず動き続ける
ジョブを見極めてそれを解決する仮説を立て、それを具現化させた作品を企画するのが、「需要から逆算する越境ECモノづくり」の概念です。形状・サイズ・用途・機能・色 (釉薬)・セット構成・価格帯などに具体的に反映させるのです。例えば、「毎日気軽に使いたい」というジョブなら、電子レンジや食洗機に耐える土と釉薬、重ねて仕舞える形状、手に負担のない重さが要件になるでしょう。「特別な一碗で点てたい」のなら、茶碗として正しい口径と見込みの深さが必要になります。商品レビューの不満に「小さすぎた」「すぐ欠けた」があれば、対処はその逆を実現することになります。これらの実需を反映させたいくつかの作品企画から実際には作家の方々からの意見を聞きながら、そのこだわりも融合させながら進めることになると思います。ジョブとその実需は季節やトレンドで絶えず動き続けるため、これらの流れを一度で終わらせずに定期的に回すことが肝要です。「誰に売るか」という属性の問いを「どんな解決したいジョブがあるのか」という問いに置き換える。これが、ペルソナへの違和感に対する、需要から逆算するモノづくりの側からの私なりの答えです。