越境EC コンテンツマーケティング 3つの事例
越境ECにおけるコンテンツマーケティングについて、陶磁器・工芸品・クラフトに近い事例を3つほど以下にて紹介します。
| 有田焼 – 400年の物語 × モダンデザイン × 世界的協業
17世紀初頭に始まった日本磁器発祥の地といわれる有田焼 (伊万里焼) の「400年の技法」という歴史そのものが強い物語性を持っています。そのストーリーに世界的デザイナーやラグジュアリーブランドとの協業などの実績を重ねたことで国際的な注目を集めて来ましたが、その発端は何だったのでしょうか。当時、有田焼の取引額は1991〜92年をピークに2014年には1/5以下まで落ち込み主要顧客も高齢化していました。このような危機を直視して2013年頃から産地ぐるみで講じた一連の意図的な取り組みが状況を打開したのです。
有田焼の窯元や組合は、生き残るには海外市場を取りにいくしかないことを共有し、それを個々任せにはせず、佐賀県が旗を振り行政主導で産地を挙げて体制をつくりました。2013年11月、佐賀県とオランダ大使館が「クリエイティブ産業交流の合意」を締結し、現代の協業プラットフォームとして起動させました。さらに、象徴的なのが「2016/ (にせんじゅうろく) プロジェクト」です。創業400年を機に、クリエイティブ・ディレクターを招聘しオランダの有名なデザインスタジオを中心に、世界で活躍する16組の海外デザイナーと16の窯元・商社が協働、約400点の新作を制作し2016年のミラノ・サローネ (ミラノ国際家具見本市) で大々的に発表しました。同時期には、有田焼の老舗窯元が展開する磁器ブランド ARITA PORCELAIN LAB が、フランスのメゾン・ゲランの香水ボトルを伝統技法で製作し、ラデュレやマンダリン オリエンタル (パリ) ともコラボしています。
有田焼は、「Nippon Modern Luxury」を掲げ、400年の歴史を「今の暮らしで使えるラグジュアリー」として海外へと展開しました。これらのミラノでの展示やゲランとの協業は国際メディアに広く取り上げられ、有田焼はデザイン層・富裕層・ホテル・レストラン関係者からの認知を獲得しました。ただし、これだけ大きな成果を出してもすべての問題を解決したわけではありません。有田焼の製造品等出荷額は、確かに2016年の上記イベント前後で一時的な山をつくったものの、その後上昇基調には戻っていません。きっかけとして成功したブランド発信と評判を、継続した販売へと越境ECで繋げていくことは多くの事例における重要な課題であると考えています。

出典 :
When Tradition Meets Technology – FedEx
2016/ プロジェクト – Dezeen
Guerlain × Arita 400周年 ミツコボトル – LVMH
ARITA PORCELAIN LAB – アリタポーセリンラボ
有田焼産地 実態調査報告 – まるごと有田 2023
| BECOS × tsunagu Japan – オウンドメディア起点でのクラファン
BECOS (Beautiful Crafts Online Store) は、日本各地の職人から厳選した高品質な「Made in Japan」の工芸品を中心に4,000点超のセレクションと100社超の出展者が集う越境ECモールです。日本的モダンデザインに寄せた品揃えに加え、ギフト対応 (ラッピング・のし・メッセージカード) や1〜2営業日発送など、購入の導線を丁寧に作り込んでいる点も評価されています。そして、本事例で紹介したいのは、元から持っていたメディア資産をテコにした「コンテンツ起点の商品開発」です。
具体的には、訪日観光メディア「tsunagu Japan」 (月間約220万ユーザー・8言語展開) で海外ユーザーに商品の背景・物語などのコンテンツを届けて需要を温め、それをKickstarterの海外クラウドファンディングで一気に需要を顕在化させて商品化するという流れです。2020年からD2C Xなどと協業してこの取り組みを開始し、メディアで喚起した関心を売上に変える設計を組み立てました。単独で海外需要を掘り起こすのではなく、既存のメディア基盤に相乗りして需要形成を代行させる発想が奏功しました。
成果としては、Kickstarterで、い草のヨガマット (目標比460%) や温度で色が変わる四季グラス (同385%) など、複数のプロジェクトを成功させています。さらに2024年には、能登震災の地にある、ふくべ鍛冶 (1912年創業) のアップサイクル包丁「tsunagu knives」プロジェクトが達成金額1,571万円・達成率7,857%・支援者472人 (期間約1か月、海外向け) を記録しました。復興ストーリーと能登の工房ツアー体験を組み合わせ、インバウンド需要にも接続しています。産地単独でのオウンドメディアだけではなく、既存メディアにも相乗りすることで需要を把握し商品開発を行うことで、販売として初動を加速させることに繋げたのです。

出典 :
Traditional Crafts Cross-Border EC Strategy and Success Stories – Kogei Japonica
tsunagu knives プロジェクト 達成金額1,571万円・達成率7,857% – D2C
BECOS × tsunagu Japan 越境クラファン開始 – D2C X
| 制作プロセスを語る個人作家 – 工程の可視化がファンを生む
ブランドや強力な流通を持たない個人作家でも、制作プロセスを詳細に発信するコンテンツによって、ユーザーの関心を喚起し販売まで持っていくことができます。釉薬の調合や焼成工程といった通常は見えない手間の連なりを、ブログ・SNS・商品ページで丁寧に言語化することが重要になります。陶芸は一般には表に出ない繊細な工程の積み重ねで成り立っているため、これらを語ること自体が価値になります。
業界レポート Contemporary Craft Market Report の記事によれば、二次情報ではあるものの、作家の工程を理解した買い手は、見た目だけで判断する買い手よりも最大35%高い価格でも払うとされます。工程を理解することが、価格への納得と作家への感情的なつながりを生むためだと想定されます。単なる完成品の写真よりも、「なぜこの一点にこれだけの手間と時間がかかるのか」を見せることが、価格プレミアムの根拠になるということでしょう。
イギリスの陶芸家 Florian Gadsby は、ろくろ・削り・施釉・窯焚きの工程を2014年からほぼ毎日InstagramとYouTubeで発信し、SNS合計で約390万フォロワーを抱えています。作品はオンライン販売が売上の約87%を占め、数ヶ月ごとの再入荷 (1回200点ほど) は毎回数分で完売し、公開時にはサイトへ1.5万〜2.5万人が殺到します。工程可視化からファン化そして販売へと繋がる好例です。学術的にもハーバードでの研究で、作り手の働きや手間を見せると、知覚価値と支払い意思が上がることが実験で示されています。
工程の可視化・言語化は、SNSの拡散素材であると同時に、単価を上げるコンテンツ資産でもあります。個人作家にとって最も投資対効果が高く、産地ブランドを利用した国際連携やメディアとの協業のような外部リソースに頼らずに、今日から一人で始められることが最大の強みなのです。

出典 :
The Art of Storytelling in Ceramics – NumberAnalytics
Marketing strategies for ceramic artists – Callin
A potter of influence – Crafts Council
Working Artist: Florian Gadsby – Ceramics Monthly
The Labor Illusion: How Operational Transparency Increases Perceived Value – Buell & Norton, Management Science, 2011